さても黄色い円月である。
さても閑雅な竹林である。
七人(ななたり)の賢い人、風月の友、
この幽人たちの面持、姿、
春の夜の源平将棋、
あはれなほ思ひぞ出づる。
ただ一夜あてにをさなく
ほのかにも見てしばかりに。
罅(ひび)入りし珈琲碗(カウヒわん)に
泪芙藍(さふらん)のくさを植ゑたり。
その花ひとつひらけば
あはれや呼吸(いき)のをののく。
臭のふかき女きて
身體(からだ)も熱くすりよりぬ。
そのときそばの車百合
赤く逆上(のぼ)せて、きらきらと
蜻蛉動かず、風吹かず。
あかあかと夕日てらしぬ。
そのなかに乳母と童と
をかしげに墓をながめぬ。
われは探しぬ、色黒き天鵞絨(びらうど)の蝶、
日ごと夜ごとに針(ピン)を執り、テレビンを執り、
かくて殺しぬ、突き刺しぬ、ちぎり、なすりぬ。
なつかしき陰影をつくらんとて
雛罌粟はひらき、
かなしき疲れを求めんとて
女は踊る。
青いソフトにふる雪は
過ぎしその手か、ささやきか、
酒か、薄荷か、いつのまに
消ゆる涙か、なつかしや。
小さいその兒があかあかと
とんぼがへりや、皿まはし……
小さいその兒はしなしなと身體反らして逆さまに
足を輪にして、手に受けて顔を踵にちよと挾む。
ひと日なり、夏の朝涼、
濁酒売る家の爺(おじ)と
その爺の車に乗りて、
市場へと--途にねむりぬ。
青いとんぼの眼をみれば
緑の、銀の、エメロード。
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。
カステラの縁の渋さよな。
褐色(かばいろ)の渋さよな。
粉のこぼれが眼について、
ほろほろとが泣かるる。
過ぎし日のしづこころなき口笛は
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジプシイの昼のゆめにもふるえる顫(ふる)ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁(かなしみ)は
こまやかに匂シヤボンの消ゆるごと
長崎の、長崎の
人形つくりはおもしろや、
色硝子………青い光線(ひすぢ)の射(さ)すなかで
白い埴(ねばつち)こねまはし、糊(のり)で溶かして、砥(と)の粉(こ)を交ぜて、
わかい女王(クイン)の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
なにか知らねど、蕊(しべ)赤きかの草花のかばいろは
阿留加里(アルカリ)をもて色変へし愁(うれひ)の華か、なぐさめか、
ゆめの光に咲きいでて消ゆるつかれか、なつかしや。