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水路

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
しとやかな柳川の水路を、
定紋つけた古い提灯が、ぼんやりと、
その舟の芝居もどりの家族を眠らす。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
あるかない月の夜に鳴く虫のこゑ、
向ひあつた白壁の薄あかりに、
何かしら燐のやうなおそれがむせぶ。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
草のにほひする低い土橋を、
いくつか棹をかがめて通り過ぎ、
ひそひそと話してる町の方へ。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
とある家のひたひたと光る汲水場(くみず)に
ほんのり立つた女の素肌
何を見てゐるのか、ふけた夜のこころに。

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解説

無理に声をがなり立てた感じだったので、詩のとおりしとやかになるよう 再録しました。だいぶ自然な音で録音できてきたと思います。

北原白秋の生まれ育った柳川の、夜の風景です。芝居帰りに水路を 舟で移動しているところに、蛍が飛ぶのです。 蔵の白壁など、白秋の詩に繰り返し登場するモチーフがここでも登場します。

白秋が子供の頃見た幻想的な景色なのでしょうか。

白秋の詩にしては凝った比喩もなく、わかり易い素直な言葉で 綴られています。昔々の柳川の、おとぎ話めいた夜の景色が 浮かんできます。

「何かしら燐のやうなおそれがむせぶ」はちょっとわかりにくいですが、 燐=人魂で、「あのへんから人魂でも出てきそうだなガクブル」ということでしょう。