北原白秋『帰去来』朗読mp3

山門(やまと)は我(わ)が産土(うぶすな)、 雲騰(あが)る南風(はえ)のまほら、
飛ばまし、今一度(いまひとたび)。

筑紫よ、かく呼ばへば 戀(こ)ほしよ潮の落差、
火照沁む夕日の潟。

盲(し)ふるに、早やもこの眼、 見ざらむ、また葦かび、
籠飼(ろうげ)や水かげろふ。

帰らなむ、いざ鵲(かささぎ) かの空や櫨(はじ)のたむろ、
待つらむぞ今一度(いまひとたび)。
故郷やそのかの子ら、皆老いて遠きに、何ぞ寄る童ごころ。

(大意)
山門柳河は私を生んだ大地だ。南風(はえ)に吹かれて雲がひるがえる、 美しい場所(まほろば)だ。ああ鳥となってもう一度飛んで帰りたい。

筑紫よ、この名前を呼べば恋しく思い出される。干満の差の激しいその海が夕陽に赤く染まる海の景色が

今や私の視力は衰え見えなくなってしまった。たとえ故郷に帰っても 葦の群生や籠飼(魚などを捕るためのカゴ)、水かげろうといった懐かしい風物を 見ることはできないのだ。

それでも帰りたい。カササギの舞い櫨(はじ)の木が群生する懐かしい故郷柳川に。

故郷も当時遊んだ友達も年老いて遠ざかってしまった。
それなのに子供のようにこんなにも心引かれるのはどういうわけだろう。


北原白秋は晩年視力を失います。その不自由な中で故郷柳川への 思いを綴った絶唱です。

古めかしい言葉ですが、何度か読むうちに身をかきむしられるような 激しい望郷の思いが伝わってきます。

「帰去来」といえば陶淵明の漢詩『帰去来の辞』も有名です。やはり 望郷の思いを歌ったものです。

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