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邪宗門秘曲

われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂鋭きあんじやべいいる、
南蛮の浅留縞を、はた、阿刺吉、珍タの酒を

見目青きドミニカびとは陀羅尼誦し夢にも語る、
禁制の宗門神を、あるいはまた、血に染む聖磔、
芥子粒を林檎のごとく見すといふの欺罔の器、
派羅葦僧の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。

屋はまた石もて造り、大理石の白き血潮は、
ぎやまんの壺に盛られて夜となれば火点るといふ。
かの美しき越歴機の夢は天鵝絨の薫にまじり、
珍らなる月の世界の鳥獣映像すと聞けり。

あるは聞く、化粧の料は毒草の花よりしぼり、
腐れたる石の油に画くてふ麻利耶の像よ、
はた、羅甸、波爾杜瓦爾らの横つづり青なる仮名は、
美しき、さいへ悲しき歓喜の音にかも満つる

いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
百年を刹那に縮め、血の磔脊に死すとも
惜しくからじ、願ふは極秘、かの奇しき紅の夢、
善主麿、今日を折に身も霊も薫りこがるる。

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解説

明治40年、北原白秋は与謝野寛、吉井勇、木下杢太郎、平野万里と五人で、長崎・平戸など九州各地を旅行します(「五足の靴」の旅)。

その時見た南蛮文化の強烈な印象が、二年後の明治42年、処女詩集『邪宗門』の自費出版という形で開花するのです。

「邪宗門秘曲」は白秋の処女詩集『邪宗門』の主題となる作品で、官能的・耽美的な世界を描き出しています。

自分たちが新しい時代の詩を書くのだ、ウォー!という意気込みを、キリスト教徒に託して歌っている感じでしょうか。

信仰のためならはりつけになっても構わないキリスト教徒、それくらいの意気込みで、我々も詩作に打ち込むのだと。

言葉が難解でハッキリ言ってあまり意味がわからないのですが、この韻律の美しさ、カッコよさはゾクゾクするものがあります。

白秋は出版されたばかりの「邪宗門」を石川啄木に届けます。啄木は数日後、感想を送ってきました。

「邪宗門には全く新しい二つの特徴がある。その一つは『邪宗門』という言葉の有する連想といったようなもので、もう一つはこの詩集に溢れている新しい感覚と情緒だ。そして前者は詩人白秋を解するにもっとも必要な特色で、後者は今後の新しい詩の基礎となるべきものだ」

やや高音で超然とした感じで朗読しました。メチャクチャ気持ちよかったです。「色あかきびいどろ」を「びろおど」と言い違えてました。そのうち修正します…。