トップ > 思ひ出 > 骨牌の女王の手に持てる花

骨牌の女王の手に持てる花

わかい女王(クイン)の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
なにか知らねど、蕊(しべ)赤きかの草花のかばいろは
阿留加里(アルカリ)をもて色変へし愁(うれひ)の華か、なぐさめか、
ゆめの光に咲きいでて消ゆるつかれか、なつかしや。

五月ついたち、大蒜(にんにく)の
黄なる花咲くころなれば、
忠臣蔵の着物きて紺の燕も翔(かけ)るなり、
銀の喇叭(ラッパ)に口あててオペラ役者も踊るなり。
されど昼餐(ひるげ)のあかるさに
老嬢(オールドミス)の身の薄くナイフ執るこそさみしけれ。

西の女王(クイン)の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
何時(いつ)も哀しくつつましく摘みて凝視(みつ)むるそのひとの
深き眼つきに消ゆる日か、過ぎしその日か、憐憫(あはれみ)か、
老嬢(オールドミス)の身の薄くひとりあるこそさみしけれ。

すべての朗読音声を無料でお聴きいただけます。学校教科書付属CD・スマートフォン用アプリ等で採用されているプロの朗読です。なつかしくて新しい、情感あふれる白秋の詩の世界を、朗読によりいっそう豊かに味わえます。メールアドレスを入力して、「朗読をきく」を押してください。すぐに専用ページにアクセスできるurlをメールでお届けします。

携帯電話には届きません。パソコンのメールアドレスを入力してください。



メールマガジンの読者サービスとして無料公開するものです。後日メールマガジン「左大臣の古典・歴史の名場面」をお送りさせていただきます。すべて無料です。不要な場合、いつでも配信停止できます。当無料ファイル送付とメルマガ配信以外にメールアドレスを使うことはありません。第三者に開示することはありません。

解説

花をもてあそぶ老嬢の姿からイメージを膨らませた詩です。 北原白秋の詩には「カルタ(トランプ)のクイーン」が多く登場します。 子供の頃見たトランプの絵に、白秋は物語めいた西洋風の不思議な情緒を感じ取ったのです。

第一連は、トランプのカードに描かれたクイーンの絵について 歌っています。その手に持った花のしみじみとした情緒。

第二連は現実の風景です。「忠臣蔵の着物きて」は燕の羽の模様を ユーモラスに例えたものです。牧歌的な五月の昼餉どき、しかし 老嬢がただ一人、指先でカルタをいじくっている。(明暗の対比)

第三連はその老嬢がなにを思っているのかを空想しています。若い頃の を回想し、憂いに沈んでいるのか?

第一連の「わかい女王」と第三連の 「西の女王」の対比が見事です。同じ女王でありながら前者は トランプの絵に描かれた若い女王、後者は昼餉時に一人過ごす老嬢。 その対比がいよいよ老嬢のあはれさを際立たせるのです。

北原白秋の詩は初回は「なんだこれは?」って感じですが 何度も繰り返し読みこんでいくと次第にイメージが立ち上がってくる味わいの深さです。