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日曜の朝、「秋」は銀かな具の細巻の
絹薄き黒の蝙蝠傘(こうもり)さしてゆく、
紺の背広に夏帽子、
黒の蝙蝠傘(こうもり)さしてゆく、

瀟洒にわかき姿かな。「秋」はカフスも新しく
カラも真白につつましくひとりさみしく歩み来ぬ。
波うちぎはを東京の若紳士めく靴のさき。

午前十時の日の光海のおもてに広重の
藍を燻(いぶ)して、虫のごと白金(プラチナ)のごと閃めけり。
かろく冷たき微風(そよかぜ)も鹹(しお)をふくみて薄青し、
「秋」は流行(はやり)の細巻の
黒の蝙蝠傘(こうもり)さしてゆく。

日曜の朝、「秋」は匂ひも新しく
新聞紙折、さはやかに衣嚢(かくし)に入れて歩みゆく、
寄せてくづるる波がしら、濡れてつぶやく銀砂の、
靴の爪さき、足のさき、パッチパッチと虫も鳴く。

「秋」は流行(はやり)の細巻の
黒の蝙蝠傘(こうもり)さしてゆく。

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解説

北原白秋が明治44年、筋肉炎手術後の養生に小田原に行った時の作品です。秋を擬人化した詩です。海岸を行くハイカラな紳士の姿に秋を例えています。

すごくサワヤカでしゃれた感じです。そういう空気が出るように朗読しました。

北原白秋の詩はたとえが宇宙的すぎて意味がつかみづらいですが、あまり考えず、ぼーーと身をゆだねるのがいいと思います。

自分のイメージでは、海岸ぞいのアパートか病院か高い建物のベランダから海岸ぞいの道を見下ろしたら、クルックルッとこうもり傘を回しながら、秋の人が通り過ぎていく…その、俯瞰の図が目に浮かびました。

「広重の藍」は、安藤広重(歌川広重)の絵に多く使われる深みのある藍のことでヒロシゲブルーと呼ばれます。北原白秋オリジナルの言葉かと思ったら、一般的な言葉らしいです。印象派の絵画やアールヌーボーに影響を与えたそうです。