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乳母の墓

あかあかと夕日てらしぬ。
そのなかに乳母と童と
をかしげに墓をながめぬ。

その墓はなほ新しく、
畑中の唐茄子の花に
もの甘くしめりにほひき。

乳母はいふ、『こはわが墓』と、
『われ死なばここに彫りたる
おのが名の下闇にこそ。』

三歳(みとせ)のち、乳母はみまかり、
そのごともここに埋れぬ。
さなり、はや古びし墓に。

あかあかと夕日さす野に、
唐茄子花をかしき見れば
いまもはた涙ながるる。

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解説

最愛の乳母が亡くなった乳母がその墓の前に立って、生前のことを 回想しています。「童」は北原白秋自身を表しているのでしょう。

子供時代の夢ともうつつともつかない、懐かしいような怖いような 記憶。乳母が墓石の前で「私が死んだらこの 墓の下に入るのだよ」というのです。

実際そんなやりとりがあったというより頭の中で作り上げたストーリー だと思いますが、子供時代のワーッと幻想的な感じが、夕日に照らされた墓石とか 唐茄子のにほひとか皮膚感覚溢れる言葉の中に湧き上がってきます。