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源平将棋

春の夜の源平将棋、
あはれなほ思ひぞ出づる。
ただ一夜あてにをさなく
ほのかにも見てしばかりに。

その君はわれとおなじく
かぶろ髪、ゆめの眸して
紅の玉をとらしき。
われは白、かくて対ひぬ。

春の夜の源平将棋、
そののちは露だにあはず、
名も知らず、われも長じて
二十歳の春にあへれど。

などかまた忘れはつべき。
紅のとらす玉ゆゑ、
いとけなく勝たせまつりし
そのかみの春の夜のゆめ。

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解説

春の夜に源平将棋を指した、子供時代のぼんやりした記憶。
二人はそれぞれ成長し、二十歳の時に再会します。

子供時代に「われ」は友達?と源平将棋をします。 その友達は赤を、自分は白を担当し、対局します。

時は流れ、その対局した相手の名前も知らないまま 春の夜の源平将棋のおぼろな情緒だけが心に残っていました。

20年後、二人はバッタリ再会します。

お互いの風貌も、立場もすっかり変わっていたけど あの春の夜に自分が手加減して 無邪気に勝たせて上げた 記憶だけは 忘れていませんでした…。

「われ」は対局した相手よりちょっとお兄さん格だったのでしょうか。

「いとけなく勝たせまつりし」は「いとけなく」が「無邪気に」の意で 「勝たせ」が使役、「まつる」は「奉る」という謙譲語の短くなった 形ですから、「無邪気にお勝たせ申し上げた」ということになります。

謙譲語になっているのは、相手のほうが身分が上だったのでしょうか。それとも芝居がかった感じを出して るんでしょうか。

往々にして子供時代の記憶は食い違うので、相手に してみれば「いや、あの時勝たせてやったのは僕だ」「そんなバカな」と ケンカになりそうな気もします。

「紅のとらす玉ゆゑ」この一行がわかりませんでした。なぜ 「ゆゑ」なのか。源平将棋というのは初心者が赤を取るしきたりなんでしょうか。

それとも赤は平家をあらわす色なので史実どおり平家を負けさせるのは 忍びないということでしょうか…。

結びの「春の夜の夢」はとてもキレイです。この結びによって全体が 子供時代の幻想的な雰囲気に包まれています。