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アラビアンナイト物語

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
菱の咲く夏のはじめの水路から
銀が、みどりが……顫へ来て、
本の活字に目が沁みる。

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
赤い表紙の手ざはりが
狂気するほどなつかしく、
けふも寝てゆく舟の上。

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
葡萄色した酒ぶくろ、
干しにゆく日の午後(ひるすぎ)に
しんみりと鳴る、櫓の音が……

鳴いそな鳴いそ春の鳥。
ネルのにほひか、酒の香か、
舟はゆくゆく、TONKA JOHN.
魔法つかひが金の夢。


註。酒を搾り了れるあとの湿りたる酒の袋を干しにとて、日ごとにわが家の小舟は街の水路を上りて柳川の芝生へとゆく。 わが幼時の空想はまたこの小舟の上にて思ふさまその可憐なる翅をばかいひろげたり。

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解説

北原白秋が生まれ育った柳川は白壁の蔵が並び縦横に水路の走る情緒ある水郷でした。白秋は故郷柳川の情景を多くの詩に詠んでいます(「水路」)

北原家は代々廻船問屋を営んでいましたが、白秋の父の代から酒造業に転じました。

少年白秋は、柳川の水路を行き来する舟の上でアラビアンナイト物語などを読み空想にふけったのです。