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幻燈のにほひ

わが友よ、わが過ぎし少年の友よ、
汝は知るや、なつかしき幻燈の夜を、
ほの青きほの青き雪の夜景を、--
水車しづかにすべり、霏々(ひひ)として粉雪のふる。

ふりつもる異国の雪は陰影(かげ)の雪おもひでの雪。
いつしかと眼に滅(き)えぬべきかなしみの映画なれども、
その夜には
小さなる女の友の足のうら指につめたく、
チクタクと薄き時計もふところに針を動かす……

いとけなきわれらがゆめに絶間なくふりつもる雪。
ふりつもる「時」の沈黙(しじま)にうづもれて滅ゆる昨日よ。
淡つけきわが初恋のかなしみにふる雪は薄荷の如く、
水車しずかにすべり、ピエローは泣きてたどりぬ。

ほの青きほの青き幻燈の雪の夜景に
われはまた春をぞ思ふ、
マンドリン音をひそめしそのあとの恐怖(おそれ)に、
ふりつもる雪、ふりつもる雪、……ゆゑわかぬ性の芽生は
青猫の耳の顫へをわが膝に美しくみつつ。

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解説

初恋を扱った詩といえば島崎藤村の「初恋」ですが、北原白秋の場合はかなり趣向が違います。

学校の体育館かなんかでスクリーンに映画の上映会をやったんでしょうか。 外国映画です。画面の中に降る雪が印象に残ったのです(昔の映画は白黒でチラチラ 画面が荒れて、ただでさえ雪っぽい感じです)。

子供たちがズラーと体育座りで並んで見たんでしょう。近くに座っていた女の子に ほのかな恋心を抱いたのです。

その初恋の切なさと画面に映る異国の雪が重なり、ぼんやりなつかしい思い出になったのです。