ひと日、わが精舎の庭に、
晩秋の静かなる落日のなかに、
あはれ、また、薄黄なる噴水の吐息のなかに、
いとほのにヴィオロンの、その弦の、
その夢の、哀愁の、いとほのにうれひ泣く。
ひと日なり、夏の朝涼、
濁酒売る家の爺(おじ)と
その爺の車に乗りて、
市場へと--途にねむりぬ。
青いとんぼの眼をみれば
緑の、銀の、エメロード。
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。
雪のふる夜はたのしいペチカ
ペチカ燃えろよ お話しましょ
むかしむかしよ 燃えろよペチカ
やはらかに浴(ゆあ)みする女子(おみなご)のにほひのごとく、
暮れてゆく、ほの白き露台(バルコン)のなつかしきかな。
黄昏のとりあつめたる薄明
カステラの縁の渋さよな。
褐色(かばいろ)の渋さよな。
粉のこぼれが眼について、
ほろほろとが泣かるる。
過ぎし日のしづこころなき口笛は
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジプシイの昼のゆめにもふるえる顫(ふる)ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁(かなしみ)は
こまやかに匂シヤボンの消ゆるごと
罌粟ひらく、ほのかにひとつ、
また、ひとつ……
やはらかな麦生のなかに、
軟風のゆらゆるそのに。
長崎の、長崎の
人形つくりはおもしろや、
色硝子………青い光線(ひすぢ)の射(さ)すなかで
白い埴(ねばつち)こねまはし、糊(のり)で溶かして、砥(と)の粉(こ)を交ぜて、
海は荒海、
向うは佐渡よ、
すずめ啼け啼け、もう日はくれた。
みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ。
この道はいつか來た道、
ああ、さうだよ、
あかしやの花が咲いてる。
あかしやの金と赤とがちるぞえな。
かはたれの秋の光にちるぞえな。
片恋の薄着のねるのわがうれひ
「曳舟」の水のほとりをゆくころを。
やはらかな君が吐息のちるぞえな。
たはれをのかずのまにまに
じだらくにみをもちくづし、
おしろいのあをきひたひに
ねそべりてひるもさけのみ、
わかい女王(クイン)の手にもてる
黄なる小花ぞゆかしけれ。
なにか知らねど、蕊(しべ)赤きかの草花のかばいろは
阿留加里(アルカリ)をもて色変へし愁(うれひ)の華か、なぐさめか、
ゆめの光に咲きいでて消ゆるつかれか、なつかしや。
いづこにか敵のゐて、
敵のゐてかくるるごとし。