蛍
夏の日なかのヂキタリス、
釣鐘型に汗つけて
光るこころもいとほしや。
またその陰影(かげ)にひそみゆく
蛍のむしのしをらしや。
そなたの首は骨牌(トランプ)の
赤いヂヤツクの帽子かな、
光るひもなきその尻は
感冒(かぜ)のここちにほの青し、
しをれはてたる幽霊か。
ほんに内気な蛍むし、
嗅げば不思議にむしあつく、
甘い薬液(くすり)の香も湿る、
昼のつかれのしをらしや。
白い日なかのヂキタリス。
解説
蛍のイメージを綴った詩です。真夏のヂキタリスの花、その釣鐘状の花の中に隠れ、ぼうっと光る蛍の愛しさ。
蛍の首のその赤は、トランプのジャックの帽子の色だ。また弱々しい光るその尻は風邪でもひいてるように空ろだ。消えかかった幽霊のようにボヤッとしている。
その気弱なニオイを嗅ぐと妙に蒸し暑く、甘い薬の香りが漂ってくるようだ。けだるい真夏の白い日中にヂキタリスが咲いている。
(注)ヂキタリス(ジギタリス)
多年草。夏に釣鐘状の花をつける。劇薬の材料となる。
Wikipediaの説明
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朗読・解説:左大臣光永