道化もの
ふうらりふらりと出て来るは
ルナアパークの道化もの、
服は白茶のだぶだぶと戯(おど)け澄ました身のまわり、
あつち向いちやふうらふら、
こつち向いちやふうらふら、
緋房(ひぶさ)のついた尖がり帽子がしをらしや。
鉛粉(おしろい)真白けで丸ふたつ
頬紅さいたるおどけづら、
円い眼ばりもくるくると今日も呆(とぼ)けた宙がへり。
かなしやメエリイゴウランド、
さみしや手品の皿まわし、
春の入日の沈丁花がどこやらに。ひとが笑へばにやにやと、
猫のなきまね、烏啼き、
たまにやべそかき赤い舌、嘘か、色眼か、涙顔。
鳴いそな鳴いそ春の鳥、
鳴いそな鳴いそ春の鳥、
紙の桜もちらちらとちりかかる。薄むらさきの円弧燈(アークとう)、
瓦斯(ガス)と雪洞(ぼんぼり)、鶴のむれ、
石油ヱンジンことことと水は山から逆おとし、
台湾館の支那の児
足の小さな支那の児、
しよんぼり立つたうしろから馬鹿囃子。ぬうらりしやらりと日が暮れて
またも夜となる、道化もの、
あかい三角帽をちよいと投げてひよいと受けたら禿頭。
あつち向いちやくうるくる、
こつち向いちやくうるくる、
御愛嬌か、またしてもとんぼがへり。
解説
道化者(ピエロ)の哀愁を歌った詩です。ピエロの淋しく、滑稽で、どこか不気味なところもあり、夕暮れの侘しい景色に溶け込んでいく、そういう感じで朗読しました。
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朗読・解説:左大臣光永