序詩

思ひ出は首すぢの赤い蛍の
午後のおぼつかない触覚(てざはり)のやうに、
ふうわりと青みを帯びた
光るとも見えぬ光?

あるひはほのかな穀物の花か、
落穂ひろひの小唄か、
暖かい酒倉の南で
ひきむしる鳩の毛の白いほめき?

音色ならば笛の類、
蟾蜍(ひきがへる)の啼く
医師の薬のなつかしい晩、
薄らあかりに吹いているハーモニカ。

匂(におひ)ならば天鵞絨(びろうど)、
骨牌(かるた)の女王(クイン)の眼、
道化たピエローの面(かほ)の
なにかしらさみしい感じ。

放埓(ほうらつ)の日のやうにつらからず、
熱病のあかるい痛みもないやうで
それでゐて暮春のやうにやはらかい
思ひ出か、ただし、わが秋の中古伝説(レヂェンド)?

解説

北原白秋のすごした子供時代、その柳川での思い出が 様々な比喩、イメージを積み重ねることで描き出されます。

「首筋の赤い蛍」という表現は白秋の詩に何度も登場します。蛍の首の赤い帯は 少年時代の思い出としてよほど印象深かったようです。 昼間光る蛍というのは見たことないですが、いかにも弱々しくはかなく 光りそうです。

「暖かい酒倉の南」白秋の生家は酒造屋だったので、きっとよく蔵の 中で遊んだのでしょう。その記憶でありましょう。

「ひき?(むし)る鳩の毛」子供時代は動物や虫に対して興味本意で 残虐なことをしがちで、北原白秋は猫を潟海にほり込んだことや とんぼを雪駄で踏み潰したことを書いています。これは鳩の毛をむしって イジメた、ということでしょうか。

「医師の薬のなつかしい晩」これは、わかる気がします。風邪をひいて、 苦い薬を飲まされ、ゲホゲホいいながら寝込んでいる少年時代の侘しい 感じ、その薬の味が哀愁を帯びて懐かしいということか?

「薄らあかりに吹いているハーモニカ」この時代の風物でしょう。ハーモニカ の音は侘しく、哀愁漂います。北斗の拳の第一話でバットがハーモニカ吹いてたの 思い出しました。

「骨牌(かるた)の女王(クイン)の眼」北原白秋はよほどカルタのクイーンが 気に入っていたらしく、少年時代の記憶として多くの詩にこのイメージは 登場します。

「熱病の明るい痛み」「熱病」は青春時代の喧騒、ワーーッという 若さに任せた勢いのことでしょう。「放埓(ほうらつ)の日」と ほぼ同じ意味と解釈しました。

「ただし、わが秋の中古伝説(レジェンド)」「…そうは言っても子供の頃のハッキリしない 秋の記憶で、真実かどうかは曖昧だ」くらいの意でしょうか? 唐突すぎる幕切れで、いいのか悪いのか微妙と思います。

詩集「思ひ出」の総括のような詩です。

思ひ出

朗読・解説:左大臣光永

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