見果てぬ夢

過ぎし日のしづこころなき口笛は
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジプシイの昼のゆめにもふるえる顫(ふる)ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁(かなしみ)は
こまやかに匂シヤボンの消ゆるごと
目のふちの青き年増や泣かすらん。
過ぎし日のうつつなかりしためいきは
淡(うす)ら雪赤のマントにふるごとく、
おもひでの襟のびらうど身にぞ沁む。
吹き慣れし銀のソプラノ身にぞ沁む。
過ぎし日の、その夜の、言はで過ぎにし片おもひ。

解説

子供の頃の切ない片思いを色々な比喩で歌ったものです。

過ぎし日のしづこころなき口笛は
片思いをしているため落ち着かない少年が 口笛をひょろひょろと吹いているのです。

日もすがら
一日中

ジプシイの昼のゆめにもふるえる顫(ふる)ふらん
その少年の吹く口笛は、ジプシイのような居住の定まらないものの夢の中まで 響くだろう、の意。

目のふちの青き年増や泣かすらん
目のふちが青くやつれた商売女の心にすら響き、涙を流させるだろう、の意。

うつつなかりし
夢か現実かはっきりしない

おもひでの襟のびらうど身にぞ沁む
マントの襟のビロードに包み込まれる感じが、思い出に包み込まれるようだと。

吹き慣れし銀のソプラノ
口笛がいつの間にかソプラノになっています。北原白秋の詩の魅力は このように比喩や連想でどんどんイメージが飛躍していくところにあると 思います。「銀」はすずしげな響きを表す感覚的な表現でしょう。

思ひ出

朗読・解説:左大臣光永

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