青いとんぼ
青いとんぼの眼をみれば
緑の、銀の、エメロード。
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。
青いとんぼの飛びゆくは
魔法つかひの手練かな。
青いとんぼを捕ふれば
女役者の肌ざはり。
青いとんぼの綺麗さは
手に触るすら恐ろしく、
青いとんぼの落つきは
眼にねたきまで憎々し。
青いとんぼをきりきりと
夏の雪駄で踏みつぶす。
解説
青いとんぼの妖しい美しさに、子供ならではの倒錯した攻撃性が発し、
雪駄で踏み潰す詩です。
ようは男の子がバッタの足をちょん切ったり、カマキリの頭を引っこ抜いたり、カエルの尻に爆竹をぶちこんで爆破したり、
あの感覚です。
北原白秋も子供の頃はそうとうやったようです。猫を潟海にほり込んだ
話が「わが生ひ立ち」という文章の中に出てきます。
緑の、銀の、エメロード。
「緑かな、銀かな、いやいやエメラルドだ」と、考えているのでしょう。つまり
キラキラと変化するその目の色を一発で形容しがたい感じ。
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。
燈心草の穂のように羽がキラキラ光っている
青いとんぼの飛びゆくは
魔法つかひの手練かな。
ひらひら飛んでいく姿が魔法使いのように妖しい
青いとんぼを捕ふれば
女役者の肌ざはり。
とんぼの肌は乾いてカサカサして、女役者の肌のような質感だ
青いとんぼの落つきは
眼にねたきまで憎々し。
捕まえられたのにビックリもしないで落ち着き払ってるのが
憎らしいというのでしょう。
次の詩「午後」
朗読・解説:左大臣光永