謀反

ひと日、わが精舎の庭に、
晩秋の静かなる落日のなかに、
あはれ、また、薄黄なる噴水の吐息のなかに、 
いとほのにヴィオロンの、その弦の、 
その夢の、哀愁の、いとほのにうれひ泣く。 
  
蝋の火と懺悔のくゆり
ほのぼのと、廊いづる白き衣は
夕暮に言もなき修道女の長き一列。
さあれ、いま、ヴィオロンの、くるしみの、
刺すがごと火の酒の、その弦のいたみ泣く。

またあれば落日の色に、
夢燃ゆる噴水の吐息のなかに、
さらになほ歌もなき白鳥の愁のもとに、
いと強き硝薬の、黒き火の、
地の底の導火燬き、ヴィオロンぞ狂ひ泣く。

跳リ来る車両の響、
毒の弾丸、地の烟、閃く刃、
あはれ、驚破、火とならむ、噴水も、精舎も、空も。
紅の、戦慄の、その極の
瞬間の、叫喚燬き、ヴィオロンぞ、盲ひたる。

北原白秋の詩の中でも難解な部類だと思います。そして病的です。 「この道」「落葉松」のようなサワヤカな 詩と同じ作者とは思えません。

夕暮れの修道院の庭の風景からイメージを広げていきます。

主要なモチーフである「盲ひたるヴィオロン」は、行方も定まらず フラフラと乱れるヴァイオリンの旋律のことです。これは 「心の中に起こる情念」を暗示しているようです。

第一連は状況設定です。「精舎」は寺院。ここでは修道院のことですが、 「わが」と言っているので自分の心理状態の暗示でしょう。 その修道院の庭(心)に噴水があり夕暮れの光がキラキラ反射している、その情緒はまるで哀愁を帯びた ヴァイオリンの旋律のようだ、と。

実際にヴァイオリンの音が聞こえるとかヴァイオリン弾きの オッサンが座っているということでなく、連想です。イメージを膨らませているのです。

第二連で修道院の回廊を修道女たちがしずしずと歩いています。静かな穏やかな、 平安に充ちた感じです。「さあれ(しかし)」そんな平安の中にも 「火の酒のような」激しい情念が燃え上がっているのです。

第三連。ちょっと時間経過があります。「またあれば(そうしていると)」夕暮れの穏やかさの中にも 激しい情念がふつふつと沸きあがってきます。

「夢燃ゆる噴水の吐息」は噴水の水が夕陽で真っ赤に染まった情緒です。 第一連の「薄黄なる噴水の吐息」と色彩が変わっています。時間が経過しています。

「歌もなき白鳥の愁」歌うこともできない白鳥の鬱屈した憂いのことです。 この二つは夕暮れの哀愁をあらわすのでしょう。

第四連でいよいよ心の中の情念が爆発します。「謀反」の勃発です。 そして謀反が終わったあとは焼け野原になり、 盲人の歩みのように頼りないフラフラとしたヴァイオリンの旋律が響くのです。 悔恨の情を暗示しているのでしょうか?

邪宗門

朗読・解説:左大臣光永

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