陰影

なつかしき陰影をつくらんとて
雛罌粟はひらき、
かなしき疲れを求めんとて
女は踊る。

晴れやかに鳴く鳥は日くれを思ひ、
蜥蜴は美しくふりかへり、
時計の針は薄らあかりをいそしむ……

捉へがたき過ぎし日の歓楽よ、
哀愁よ、
すべてみな、かはたれにうつしゆく
薄青きシネマのまたたき、
いそがしき不可思議のそのフィルム

げにげにわかき日のキネオラマよ、
思ひ出はそのかげに伴奏(つれひ)くピアノ、
月と瓦斯との接吻(キス)、
瓏銀(ろうぎん)の水をゆく小舟。

なつかしき陰影をつくらんとて
雛罌粟は顫へ、
かなしき疲れを求めんとて
女は踊る。

解説

陰影=思い出、過去、余韻。 現在は常に過去を引きずっている、その思い出こそ尊いのだ、という話です。

(大意)
ヒナゲシの花が開くのは、DNAに刻まれたその花の美しいシルエットを 再現するためであり、女が踊るのは踊った後の心地よい疲れを得るためだ。

鳥が晴れやかに鳴くのは夕暮れ時に昼のことを懐かしむためであり、 蜥蜴はその歩いてきた跡を美しく振り返り、時計の針はどこまで 行っても現在と過去の接点を忙しく進んでいく。 (ここまで「陰影」の具体例)

捉えがたい若き日の思い出よ。
全て夕暮れ時に映してゆく薄青いキネマの画面のちらつきのようで、 何と忙しく、不思議にそのフィルムは心を引くことか。

若き日はキネオラマのように淡い陰影の中に浮かぶ。 また、その伴奏のピアノのようにはかない。

月の表面に霧がかかる、おぼろな風景を思わせる。 瓏銀(ろうぎん)の水をゆく小舟のようにぼんやりしている。

思ひ出

朗読・解説:左大臣光永

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