怪しき思
われは探しぬ、色黒き天鵞絨(びらうど)の蝶、
日ごと夜ごとに針(ピン)を執り、テレビンを執り、
かくて殺しぬ、突き刺しぬ、ちぎり、なすりぬ。
鬼百合の赤き花粉を嗅ぐときは
ひとり呪ひぬ、引き裂きぬ、噛みぬ、にじりぬ
金文字の古き洋書の鞣皮(なめしがは)
ああ、それすらも黒猫に爪をかかしつ。
われは愛しぬ、くるしみぬ……顫へ、おそれぬ。
怪しさは蝋のほのほの泣くごとく、
青き蝮のふたつなき触覚のごと、
われとわが身をひきつつみ、かつ、かきむしる。
美くしき少年のえもわかぬ性の憂欝。
解説
性に目覚めた少年期の、サディズム的な倒錯した破戒衝動がテーマです。
北原白秋が頻繁に扱うテーマです。「青いとんぼ」「思」もこのテーマです。
美しいものだからイジメたくなる、破戒したくなる。
黒い蝶をピンで突き刺し、鬼百合を引き裂き、表紙に金文字のピカピカしている
洋書を見て、いかにも宝物のような高級そうな様子にワクワクしながら
猫にバリバリ爪を研がせる。
北原白秋はたぶん神経症的なところが
あったのでしょう。自分もその傾向があるので、大変共感できます。
例えばゲームを買ったら外箱が立派でいかにも「いいものが入ってるなぁ」という
ワクワク感に包まれ、しっかり保存しておけば中古屋に売るときも
高い買取価格になるのに、ペタペタ箱を触ってしまう、手脂を
つけてしまう。
「勿体ねえー」と思いながら触りまくってしまう。
…あれに近い感覚だと思います。
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朗読・解説:左大臣光永