思
堀端に無花果(いちじく)みのり、
その実いとあかくふくるる。
軟風(そよかぜ)の薄きこころは
腫物にさはるがごとく。
夏はまた【おふし】の水馬、
水面(みずのも)にただ弾くのみ。
誰か来て、するどきナイフ
ぐざと突き刺せよかし。……
無花果は、ああ、わがゆめは、
今日もなほ赤くふくるる。
解説
性欲が強烈に高まってどこへ持っていきようもない、錯乱しそうな感じです。
赤くふくらんだ無花果の花にその暗示を見ているのです。
「水馬」はアメンボ。アメンボが水面にぴょんぴょん跳ねるが、それは
なんら建設的な効果をもたらさず、もどかしい。性欲の持って行き場が無い
自分の状況を重ねているのです。
いっそナイフでグサっとやってくれと、最後はヤケクソな
感じです。北原白秋の時代は今ほどエロ文化が発展してないから青年たちは苦しんだのです。
『怪しき思』も近いテーマです。
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朗読・解説:左大臣光永