過ぎし日は鍼医の手函、
天鵝絨(びらうど)の函、
柔らかに手を触れて、珍しく
パツチリとひらいた函、渡来の函。

銀かな具のつめたさ、
SORI-BATTEN.びらうどのとしやかさ、
そのびらうどに
薄う光る針。

顫(ふる)える針をつまんで、
GONSHANの薄い肌(はだえ)を刺すこころ、
やるせない夏の真昼のその手つき。

つかれと、かなしみと、ものおもひ、
官能の欲……
こころにくいほど落ちついて
しんみりと刺す盲人(めくら)の手。

過ぎし日は鍼医の手函、
天鵝絨の紫の函、
柔らかに手を触れて、なつかしく、
パツチリと閉めた函、渡来の函。


SORI-BATTEN…しかしながら
GONSHAN…良家の娘さん

解説

鍼医者の持っていた渡来の道具箱に 底知れないロマンをかき立てられていたという話です。

こういう特定のアイテムから思い出よみがえってくるのは わかる気がします。

個人的にはファミコンのコントローラーの 安っぽいボタンの手触りとかポテトチップでベタベタになった感じとか子供時代を思い出します。

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朗読・解説:左大臣光永