焼栗のにほひ
玉乗の児よ、戯奴(ヂヤウカア)よ、身振をかしき鈴振(りんふり)よ。
また、いはけなき曲馬の児、
赤き上着にとり澄ます銀笛(ぎんてき)吹きの童らよ。
げにげに汝ら、しをらしく、あるはをかしく、おもしろく、
戯れ浮かれて鄙びたる下司のしらべに忘るれど、
いづこともなき焼栗の秋のにほひを嗅ぐときは
物思ふらむ嘆くらむ、かつは涙もしたたらむ。
すべり転がる玉の上に、暗き楽屋に、
汗臭き馬の背に、道化芝居の花道に、
玉蜀黍(とうもろこし)を噛みしむる、収穫(とりいれ)の日の
盲目のわかき女に見るごとく、
物の哀れをしみじみと思ひ知るらむ、浅草の秋の匂に。
解説
浅草の道化芝居の子供らに哀愁を感じてるのです。
サーカスの見世物になって、どんな国の事情か子供時代を
苦労して、涙も見せずに…。
でもそんな子供たちでも焼栗に匂いを嗅ぐ時は子供に戻り、
故郷や母が懐かしく涙を流すのかな…そんな内容のようです。
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朗読・解説:左大臣光永