雨中小景

雨はふる、ふる雨の霞がくれに
ひとすじの煙立つ、誰が生活(たつき)ぞ、
銀鼠(ぎんねず)にからみゆ古代紫、
その空に城ヶ島近く横たふ。

なべてみな空(あだ)なりや、海の面に
輪をかくは水脈(みを)のすぢ、あるは離れて
しみじみと泣きわかれゆく、
その上にあるかなきふる雨の脚。

遥なる岬には波もしぶけど、
絹漉(きぬごし)の雨の中、蜑小舟(あまをぶね)ゆたにたゆたふ。
棹あげてかぢめ採りゐる
北斎の蓑と笠、中にかすみて
一心に網うつは安からぬけふ日の惑ひ。

さるにてもうれしきは浮世なりけり。
雨の中、をりをりに雲を透かして
さ緑に投げかくる金の光は
また雨に忍び入る。音には刻めど
絶えて影せぬ鶺鴒(せきれい)のこゑをたよりに。

北原白秋は多くの雨の詩を詠んでいます。「銀座の雨」「城ヶ島の雨」 。

次の詩「言問

朗読・解説:左大臣光永